口コミに傷つき、口コミで救われた出来事

そんなつもりで口コミに返信したわけじゃない

私が投稿していたサイトに、脚の大腿骨の手術をした人のサイトがありました。私も同じ手術をしようと考えていた時期がありましたが、当時は手術前で、自骨、いわゆる人工関節を入れる前の自分の骨で過ごしていました。
しかしそのサイトを拝見していると「術後の痛みがひどい」、「人工関節なんか入れるものじゃない」といった苦痛や後悔を訴える口コミが多く、私はつい「本人に甘えがある、乗り切らないと」と、そのときの正直な気持ちを打ち込んで送信してしまいました。すると、その日からサイト上での私への攻撃がはじまり、早い話が私は“人の痛みがわからないサイテー人間”、“人間失格”といったような書き込みが寄せられ、ひどく傷ついてしまいました。
言葉や感想というのは、本意が伝わりにくく、とても怖いものだと思い知りました。励ますつもりで送ったはずの返信が、そんなふうに曲解されて炎上同然になるなんて予想もしていませんでした。
その日以来、私は口コミというサイトに懲りて遠ざかっていました。ところがある日、学生時代の友人の母親から「娘が癌にかかって抗がん剤治療で苦しんでいるの、何気なくでいいから励ましてやって。見舞いは嫌がると思うけど、メールならいいと思うから」と、悲痛な沈み切った声で連絡が入りました。
こんなお母さんの声を聞くのは初めてです。私は「何かの間違いではないか、半年前には同窓会で会って元気だったに」と、思わず電話口で確認をしてしまったほどでした。

思い直して体験談を読みあさったのが良かった

癌の進行は初期ではなくかなり進行していて、抗がん剤による脱毛で落ち込んでいる、母親の私には励ましようがなくなったというのです。私もそんな体験をする人間を身近にするのは初めてだったので、それを区切りに遠ざかっていた口コミにアクセスし、抗がん剤治療の体験やエピソードを、生の声として片っ端から読みあさりました。
3日間アクセスしつづけ、言いようのない苦痛や孤独感に襲われている患者の姿を知ることができました。友人に連絡をすると、「あれ、もうバレちゃったの？情けないけど丸坊主の一歩手前だわ」と言って、雑談交じりの会話に応じてくれました。
何回目かのやりとりで、私が医療用かつらのことを切り出すと、「それなら探して、頼むわね」という流れになりました。
医療用のかつらなど高価なのだろうと思っていたら、市販の一般的なかつらよりも安価で質が良さそうで、そのうえ医療用なので機能性が良く、意外な結果にびっくりしました。友人は病室で試着し、何回か手直しをしてもらって、外泊時に着用しています。とても気に入ってくれていて、お母さんからも感謝されました。
今回は予想外の出来事に遭遇して仰天しましたが、あのとき口コミで患者の体験談に接していなかったら、また余計な励ましをして本人を傷つけていたと振り返っています。口コミに傷つき、口コミに助けられた貴重な体験でした。これからは言葉に気をつけ、無駄口をはさまずに友人の回復を見守ろうと思います。